夏のイギリス、子育て体験記⑥

こんにちは、ひらりんです。

2001年の夏、二人の子供(2歳半と1歳)を連れて、主人の赴任先、イギリス北東部のニューカッスル・アポン・タインを訪れた時の体験をまとめた第6弾です。今回が最終回です。

私は独身時代もイギリス一人旅をしたことがあります。バックパッカーとしてぐるっとイギリスを10日間旅したのですが、子供連れで訪れると、同じイギリスでも全く別の風景を見ることができました。

そんな子連れで訪れたイギリスの見たまま感じたままをまとめてみました。

夏になるとやってくる移動遊園地の回転木馬

自分の子も人の子もほめ上手なイギリス人

週に1度N子といっしょに通っていた共同保育「マザーズ&トドラーズ」は、イギリス人の子育てを観察するのに実に格好の場所でした。

「マザーズ&トドラーズ」については夏のイギリス・子育て体験記① 夏のイギリス・子育て体験記②にもいろいろ書いていますので、あわせて読んでみてください。

イギリス人のお母さんたちと接していて一番に感じたのは「ほめるのが上手だな」ということでした。
自分の子供がパズルをしているのを見守りながら、「そうそう、上手ね。わぁ、すごい、よくできたわね」とほめるのは、まぁ、日本のお母さんでもたいていできるでしょう。

では、他人のお子さんをほめるのはいかがでしょう?
新しく参加した私たち親子を見つけて、「なんてお名前、N子? まぁ、すてきな名前ね」とか、「かしこそうなお嬢ちゃんね」とか、何かひとことほめてくれるのです。

私は、これが苦手。お返しに相手の子供をほめようと思ってもなかなか言葉が出ないのです。英語ができないというのは理由になりません。だって、日本にいてもそうだもん。

生まれたての赤ちゃんなら、「小さくてかわいらしいわね」と言えるのですが、少し大きくなって個性が出てくると、にくたらしい顔の子供に「かわいいわね」とは言えないのです。つまり、ほめるところを見つけるのがヘタなのです。

N子をたくさんほめてもらって学習した私は、相手の子をほめるようにがんばりました。
「とてもキュートね」「グッドネーム!」

ところが、これに返ってきたことばには驚きでした。
「そうなの、うちの子とてもかわいいでしょう」「あなたもそう思う? いい名でしょう」
これは、日本人にはない感覚です。
私だって、「うちの子、西洋人の中にいてても決して見劣りしないわ。じゅうぶんかわいいじゃない」と思ったけれど、そんなこと絶対に口に出せません。

日本でほめられれば、否定する人だっています。否定まではしなくても、たいていはお礼を言って終わりでしょう。
「そうなの、うちの子かわいいでしょう」なんて言えば、親バカだと思われるだけです。

でも、子供たちは大人たちの会話を聞いているのです。親が自分に向かってかわいいと言ってくれるのもうれしいでしょうが、他人に自分のことをかわいいと言ってくれているのを聞くのは、もっともっとうれしいはず。

自分への自信が育つひとつの要因になると思います。そして、親に対する信頼の絆も強くなるんだと思うのです。

ポテトチップスも食事代わり?

私たちがイギリスを訪れた2001年は、ちょうど牛や豚がかかる口蹄疫(こうていえき)という病気がイギリス中に蔓延していたころでした。
口蹄疫は人間には感染しない病気といわれていました。でも、狂牛病も最初のうちは人間にはうつらないということでしたが、後になって人間に感染するという発表がありました。
イギリスで狂牛病が猛威を振るっていた時、みんな平気で牛肉を食べていました。独身時代の主人もちょうどそのころイギリスに住んでいて、もりもり牛肉を食べていたのですが、人間にもうつる症例が出てきて、もう誰も信じられなくなっていたのでしょう。

「口蹄疫が人にうつらないなんて本当のところどうかわからない。とにかく牛肉も豚肉も乳製品も絶対に食べるな」というお達しがイギリスにむかう前に主人から言い渡されていました。

そんなわけで私がスーパーで買うことが許されていたのは、鶏肉、卵、野菜と基本的な調味料ぐらい。あとは日本から持って来たひじきやカレールーなどの食材と日本食品店で手に入る納豆や豆腐などでまかなっていました。外食もままならず、イギリスの食文化を肌で、いえいえ舌で体験することはあまりできなかったのが残念です。

でも、垣間見ることはできました。長男が病院に入院したときです。いきさつは夏のイギリス、子育て体験記③ 夏のイギリス、子育て体験記➃ で詳しく書いてますのでぜひあわせて読んでいただけると嬉しいです。

朝食はほとんどの親はキッチンで済ましていたのでしょう。大部屋で食べている人は見かけませんでした。付き添いの親はそれでもいいでしょうが、病気の子供たちはどうしていたのか、ちょっと思い出せません。とにかく、病院から食事が出るということはありませんでした。

親がキッチンでサンドイッチなりトーストなりを作ってきて、子供に食べさせていたのかもしれません。私も、眠たい目をこすりながら子供に、日本から持って来たレトルトの離乳食を食べさせたりミルクを作ったりバタバタしていて、食事をとる暇がありませんでした。他人のことなど観察している余裕なんてありませんでした。

white ceramic mug beside toasted bread
これはイメージです

午前11時ごろに移動売店が来ると、おとなも子供も群がって、チョコバーやポテトチップスを買っていました。
イギリスではこのチョコバーを食べながら歩いている人を実によく見かけました。テレビでもよく宣伝していましたし、郵便局のレジのそばにも置いてあるぐらい、どこにでも売っているものです。携帯食のような存在なのでしょう。病院でも食事代わりに子供に与えていたのかもしれません。

昼前に看護師が、昼食の希望を聞きに来てくれました。母親にはオムレツかフィッシュ&チップス、赤ちゃんには瓶詰のベビーフードかマッシュポテトのどちらか。
私はフィッシュ&チップス、長男にはマッシュポテトをたのみました。

このフィッシュ&チップスというのもイギリスの国民食のようなもので、白身魚のフリッターと山のようなフライドポテトの盛り合わせで、酢をジャバジャバかけて食べるというものです。

レストランで上品にナイフとフォークを使って食べるものから、紙に包まれ手づかみで食べるテイクアウトのものまで、いろいろな場面で登場するイギリスの代表的な料理です。

病院で出てきたものも、本当に魚とポテトだけの、緑の付け合わせもない、シンプルなフィッシュ&チップスでした。
これを食べながら、向かいのベッドを見ると、付き添いのお母さんがテレビを観ながらポテトチップスの袋を抱えて食べていました。ベッドには小学校高学年の男の子が眠っていました。しばらくして、そのお母さんは、ベッドの上のテーブルに置かれてあったたぶん子供のために用意していたフィッシュ&チップスを食べだし、全部食べてしまったのです。
しばらくして男の子は起きると、テレビを観ながら母親が食べていたポテトチップスの残りを食べていました。

ポテトチップスもイギリス人の感覚では代用食のひとつなのでしょう。育ち盛りの、しかも病気で入院している男の子の昼食がポテトチップスだけなんて、日本では考えられないことですが…。

夕食はコンテナがまわってきて、メインとデザートを1品ずつチョイスするしくみになっていました。主人がサンドイッチとカップのヨーグルトをとっていました。私は妹が作ってくれたおにぎりを食べたので、そのコンテナに他にどんなものがのっていたのか見ませんでした。
個室に移動していたので、他の人たちがどうしていたのかも観察できませんでした。
でも、サンドイッチといったら、サンドイッチが2切れだけで、他になんのつけ合わせもあいそもないものです。

医療費が無料なのでぜいたくは言えないでしょうが、カロリーや栄養のバランスなどの一番うるさいはずの病院での食事がこんな調子ですから、一般家庭での食事もだいたい想像がつきます。
イギリス人は一般に食べるものに無頓着と言われていますが、それもうなずける話です。

口蹄疫が怖くて、ソフトクリームを食べたそうにしている長女に買ってあげられなかった私たちは、食べ物に対して神経質になり過ぎているのかもしれませんが…。

close up photography of french fries with cream
歩きながら食べるフィッシュ&チップス

子を持つ親の思いは洋の東西を問わずみな同じ

マザーズ&トドラーズに通い、つたない私の英語力で、イギリスのお母さん達と話をしていて、印象に残った会話がふたつあります。

一つは「お嬢さんの名前、なんでしたっけ? N子? それはどういう意味ですか?」というもの。
日本でも、名前の意味なんてそうそう聞かれたことがありません。まさか、イギリスでこんな質問をされるなんて思いもよりませんでした。
だって、名前に意味があるなんて、英語の国、イギリスでそんな発想が出てくるなんて信じられなかったからです。

漢字だから意味が出てくるのでしょう。「美香」なら、「美しくかぐわしい」とか「美しい香り」といったふうに。

N子(仮名)の名前は字画にこだわってつけた名前です。植物などの漢字が入った華やかなイメージの名前が付けたかったので、漢和辞書をめくり、画数にあう字を必死に探してつけた名前です。ただただ幸せに育ってほしいと願いながら…。
しかし、意味は? と聞かれると困ってしまいます。漢字に桜の字を使っているので「チェリーブロッサム(桜の花)」と答えました。

今度自分もこの質問を誰かにしてやろうと思っていたのですが、ついにその機会はありませんでした。
イギリス人の名前にも、それなりの意味がある。「意味」というのではなくても親の子供に対する思いをすることができたかもしれないのに残念です。

公園でお父さんと女の子が遊んでいるのに出会い、子供の名前を聞いたところ「ハナ」というので、「ハナは日本ではフラワーのことですよ」と、反対に教えたことはありましたけれど。お父さんはそれを聞いてうれしそうでした。

話は変わりますが、イギリスではお父さんと子供という組み合わせをよく見かけました。平日の公園でも遊んでいたりします。ショッピング街でベビーカーを押しているい父親の姿も、周りから自然に受け止められているようでした。
父親の育児参加、2021年の現在では日本でもずいぶん進んでいると思いますが、もっと普通の風景になるといいですよね。

印象に残ったもう一つの会話は、「しばらくこちらに住むの? そしたら、日本にいるおじいさん、おばあさんが寂しがっているでしょうね」というものです。
主人から、イギリスの親子関係は希薄だと聞かされていたので、イギリス人の口からそんな言葉が出てくるなんて思いもよらなかったのです。
この話を主人にすると、「そりゃ、どこの国の人でも孫はかわいいもんだ。隣の老夫婦だって、孫ができたばかりの時は毎週末、車で片道2時間の息子の家まで通っていたよ」というのです。

そういう目で見ると、斜め向かいの家は、車いすの夫人と夫の二人暮らしですが、ちょっちゅう子供家族らしき人たちがガーデニングの手伝いに来てくれます。向かいの家は2世帯住宅です。
夏休みの季節になると、おそらく帰省してきているのでしょう。近所では小さい子供たちを連れた若い夫婦が遊びに来ている光景もよく見られました。

主人が、イギリスの親子関係が希薄だと言っていたのは、独立した子供たちが精神的に自立していて、親と大人の関係を保っているのを見て言ったのではないかと思います。そこらへんが、まだまだの主人には反対に親子の情が薄いように見えたのかもしれません。

一般に「孫は無条件でかわいい」と日本でいわれていることは、どこの国でもあてはまることなのでしょう。
元気に大きくなってほしい、幸せになってほしいという、子供への親の願いも、イギリス、日本にかかわらず世界各国、昔から変わらない共通したものなのだと思います。
そして、この思いが、この世界を、この地球を住みやすい星にしていこうとする原動力の一つとなっていると私は信じたいのです。

以上が私が20年前、イギリスから戻ってきてすぐにまとめた文章のすべてです。
すぐに文章にまとめておいて本当に良かったと思います。
すっかり忘れてしまっていることもあれば、自分の書いた文章を読むことで色鮮やかに思い出すこともあるからです。
そして、子供たちに読んでもらうこともできるからです。ほとんど記憶に残っていないイギリス滞在を写真だけでなく、母親の思いとともに心にとどめてもらうことができました。

夏のイギリス、子育て体験記を①から⑥まで、もしくは一つでも読んでくださいました読者の方々、どうもありがとうございました。 イギリスに興味のある方、海外での子育てに関心のある方々に何かしら役に立てていれば幸いです。

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